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2010年2月16日 (火)

子どもの性同一性障害:/下 認識不足で進まぬ対応

 ◇受診ためらう親、戸惑う学校 治療には判断分かれ

 性同一性障害(GID)と診断された子どもがどれくらいいるかというデータはない。しかし、悩みながら学校に通っている子は決して少なくはないようだ。

 「これほど多いのか」。岡山大の中塚幹也教授は一昨年、岡山県内の小中学校の教員約200人を対象に実施した調査の結果に驚いた。身体的な性別に違和感を持つ児童・生徒に接した経験を尋ねたところ、4人に1人が1~2人いたと回答したのだ。中塚教授は「教育現場にいる多くの大人が、GIDかもしれない子どもたちの悩みをキャッチしている。なのに対応に十分結びついていない」と残念がる。

 昨年9月に学校生活上の性別を切り替えた小学2年児童を診断した塚田攻・埼玉医科大講師は「一人でも理解のある教職員がいて、積極的に動けば、硬直した対応が変わることがある」と感じている。かつてGIDと診断したある女子高生の場合、校長が他の教員らの反対を押し切り、女子生徒でもズボンの制服を選べるように校則を変えたという。

 しかし、こうしたケースはまだごく一部に過ぎない。学校の柔軟な対応が進まない背景について、専門家らは「教育行政や現場の教職員のGIDに対する認識不足がある」と口をそろえる。

    *

 そもそも子どものGIDには成人とは異なる面があるのか。親や周囲はどのような兆候で気づくことができるのだろうか。

 国際的な診断基準では、特徴として次のようなことが挙げられている。

・自分の性別が体の性別とは反対であると、繰り返し主張する

・ごっこ遊びで、体の性別とは反対の性の役割をしたいという気持ちが強く続く

・男の子が自分の陰茎や睾丸(こうがん)を「気持ち悪い」「そのうちなくなる」などと言う

・女の子が便器に座って排尿することを拒んだり、そのうち陰茎が生えてくる、自分には陰茎がある、などと主張する

 大阪医科大の康純准教授は「不安で子どもを病院に連れてくる親でさえ、わが子がGIDであると認めたくないばかりに現実に目を背け、診断結果を伝えても『この子だけは違うはず』と譲らないことが多い」と話す。親に性別への違和感を訴えても受け止めてもらえず、受診につながらない。「それが子どものGIDを表面化しにくくしているのではないか」と推測する。

 一方、「はりまメンタルクリニック」(東京都)の針間克己院長は「子どものころにGIDと診断されても、成長するにつれ体の性別に対する違和感がなくなることも少なくない」と、対応の難しさを指摘する。

 欧米の研究者が4~12歳でGIDと診断された男児44人のその後を追跡した調査がある。診断から10年たった段階で、多くが同性に恋愛感情を抱く傾向にあったものの、体の性を心の性に合わせる性別適合手術を真剣に考えていたのは1人だけだった。別の調査では、思春期前にGIDと診断された45人のうち、思春期を過ぎて性別適合手術を希望した人は14%にとどまった。

 針間院長はこうしたデータを踏まえつつも「周囲の対応が遅れ、子どもが学校に行けなくなってしまうこともある。明らかに兆候があると感じたら、専門医に診察を受けたほうがいい」とアドバイスする。

    *

 日本精神神経学会はGIDに関する診断と治療のガイドラインを策定しているが、当事者団体「性同一性障害をかかえる人々が、普通にくらせる社会をめざす会」の山本蘭代表は「基本的に18歳以上が対象で、子どもについては抜け落ちている」と指摘する。

 課題の一つは医学的な治療をどうするかだ。ガイドラインでは、体の性を心の性に近づけるホルモン療法を18歳から認めているが、体の性への違和感による精神的な苦痛は第2次性徴を迎える10代前半ごろから一気に強まる。その間の期間をどう乗り越えるのか。

 薬で第2次性徴を抑えれば、成長後もGIDの症状が続くケースかどうかを見極めやすくなる。さらに、将来的にホルモン療法などを受ける場合、より自然な形で治療効果が表れるという利点もある。ただし、成長期に投与した場合の副作用などは十分に検証されていない。

 小学校入学時にGIDと診断され、いつ第2次性徴が始まっても不思議のない年齢に達している児童が全国で少なくとも2人いることが分かっている。うち1人の児童の主治医である康准教授は「第2次性徴が来たら、ホルモンを抑える薬の投与に踏み切る可能性はある」と話す。一方、もう1人の児童の主治医、塚田医師は「安易に医学的介入をすべきではない」と慎重な姿勢だ。

 GID学会理事長の大島俊之・九州国際大教授(民法)は「精神科の領域だけでなく、身体的治療の分野でも十分論議し、合意点を探る努力が必要だ」と話す。

 子どものGIDにどう対処すればいいのか。教育現場も医療現場も、待った無しの段階に来ている。【丹野恒一】

 ◇9割が中学生までに自覚

 子どもの段階からGIDであることが例外的ではないことは、当事者への調査からも読み取れる。中塚教授らが661人に聞き取りをしたところ、半数以上が小学校入学以前に、9割が中学生までに性別への違和感を自覚し始めていた。体は女性で心が男性という人の方が、その逆よりも早い段階で自覚していた。

 また、4人に1人は不登校の経験があり、自殺を考えた人は全体の約7割に上った。中塚教授は「教員らが多様な性の在り方を理解し、GIDの子が相談しやすい環境を整えることが求められる」と話す。

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 ■体の性別に違和感を覚えた時期

 (岡山大調査より)

小学校入学前  52.3%

小学校低学年  15.6%

小学校高学年  12.0%

中学生     10.3%

高校以降     8.3%

不明       1.5%

 ■GIDが思春期に及ぼした危機

不登校になった 24.4%

自殺を考えた  68.7%

自傷・自殺未遂 20.6%

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