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2009年12月 3日 (木)

女性として生きたい 【くらしを見つめて】

◆性同一性障害の47歳会社員

  ふっくらした胸に細くしなやかな指を持つ会社員、鈴木弘実さん(47)=仮名、岡山県。「女の子になれたらいいな」と思い始めたのは、中学生になる頃だ。長男らしく生きることを両親に期待されているのはわかっていたが、こっそり母のスカートをはき、口紅を塗った。

  高校卒業後に就職。女性と交際しようとしたこともある。一方で女性化願望も強まった。23歳のとき、大阪の女装パブに行き、カツラや服を借りて女性の格好をした。気持ちがしっくりしたという。自分で服や化粧品を買うようにもなった。

  数年後には、交際中の女性との結婚も決まった。「本当に彼女を幸せに出来るのか」との不安もあったが、2人で明るい家庭を築きたい、もう女装はやめようと服や化粧品をすべて捨てた。だが1年後、再び女性の服を購入し始めた。ワンピースなど5着と、10品ほどの化粧品は、天井裏に隠した。

  やがて子どももでき、育児や仕事で忙しくするうち、40歳代になった。肌は脂ぎり、ひげは濃くなっていく。抜け毛も気になるようになった。ちょうどこのころ、父の死などに直面し、自分の人生を考えた。「男性として年老いるのは嫌だ」。胸が膨らんでいく娘を見ると、成長をうれしく思う一方で、うらやましさも感じた。

   ◇  ◇

 43歳の夏、インターネットで女性ホルモンの錠剤を買った。精子の動きが鈍くなるため、子どもができるまでは使わないでおこうと決めていた「禁断の果実」。最初の一粒を飲んだ時、「やっと普通の女性の体内にあるのと同じものが体中を満たしてくれる感じがしてうれしかった」。ただし、いつでも男性に戻れるようにと、飲んだり止めたりを繰り返した。

  自己流でなくちゃんとした治療を受けたいと、1年後に岡山大学のジェンダークリニックを受診。思いをまとめた「自分史」を持参し、説明すると医師は「長い間苦労されてきましたね」。性同一性障害(GID)と診断された。

  「ああ、やっぱり」と納得した半面、どうしたらいいのかわからなくなった。医師は、治療するには妻に打ち明けることが不可欠と言う。告げれば、離婚を突きつけられるかもしれない。大切な家族を失わずにすむ方法はないだろうかと考えあぐねた。

  その年の月、高松市で活動する性的マイノリティーの自助グループ「プラウド in 香川」の会に参加した。自分のセクシャリティーに向き合う人たちから勇気をもらった。

◆妻も理解 家族と歩む

  年明けの正月休み、パートナーを誘いファミリーレストランへ出かけた。「実は、岡山大で、性同一性障害という診断をもらったんだ」。パートナーは「えっ、何それ?」と目を見開いた。「男性として暮らしていけるのに、子どももいるのに今更? どうして結婚したの?」。疑問を次々とぶつけられた。

  「一生を一緒に歩んでもらえるパートナーと、すてきな家庭が持ちたかった。家族が大事で幸せ。今後も一緒に生活したい」。一生懸命、家族への愛を表現した。

  会話が減り、気持ちを探り合う数週間が過ぎ、パートナーが口を開いた。「最初は離婚もよぎったけど、なんとかなりそうだと思えた」。ほっとした。「あなたは人に話すことで、自分自身にカミングアウトすることが出来たのよね」。GIDである自分が、やっと認められたと思えた。

  07年以降、2週間に1度、岡山大学で女性ホルモンの注射を受けている。普段は男性として生きているが、少しずつ胸はふくらみ、顔つきも丸みを帯びてきた。「女性モード」の時にはブラジャーを付け、ほお紅をはたき、口紅を付けて「女の顔」になる。

  理想の体のありようと、家族との生活との間で、できるだけ折り合いを付けて生きていこうと思っている。かわいい服を着たくても、パートナーに「お父さんなんだから」と言われれば、おとなしい服で我慢する。焦らず、周りが認めてくれる範囲で、主張していこうと思う。

  子どもにはまだ、説明していない。「人とは変わっているけど、恥ずかしいことじゃない。あくまで自分の生き方として選んでいる」。将来、時期が来たら、そう話すつもりだ。

(上田真美)

■ ホルモン療法 ■

  心と体の性別が一致しない性同一性障害の治療法の一つ。心の性別にあうホルモンを投与し、体の特徴をそれに近づける。注射のほか、女性ホルモンの場合は飲み薬、はり薬なども。女性ホルモンは血管が詰まるリスクが高まり、男性ホルモンでは心臓に負担がかかるなど副作用の恐れがある。岡山大学保健学研究科の中塚幹也教授は「インターネットでの薬の入手は危険」と医療機関の受診を薦める。

●取材後記 ~ 本音で話せる社会になって●

  性別という区分は社会に深く根付いているが、その間で揺れる人が確かに存在する。体は男性で女性になりたいGID患者の場合、違和感を抱きながら女性と結婚し、続かずに離婚に至るケースも多いという。無理を重ねず本音で話せるよう、少しずつでも社会に理解が広がればと思う。

2009年12月3日 朝日新聞

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